【イベントレポート】「水曜ワトソンカフェVol.1 」ビジネス現場の“等身大”のIBM Watsonを知る

  • 2017/08/10

IBM Watsonで何ができる?
業務改善からサービス開発まで“リアル”な活用法を議論する。

「水曜ワトソンカフェ」vol.1 2017年7月26日開催

 

人間のクイズ王を打ち負かし、医者として新たな治療を提案、時にはシェフとしてレシピも考案する。IBM Watsonは、日々のニュースに登場し、”人間に取って代わるテクノロジー”といった切り口からよく語られます。

Watsonが高度なタスクを担い得るのは確かである一方、”人間の仕事を代替する未来の技術”という側面は、Watsonの一部でしかありません。すでに、実際のビジネスにおける課題解決のソリューションや、新たな事業創出を実現するツールとして、Watsonは活躍の場を広げているからです。

IBM BlueHubとco-ba が共催する「水曜ワトソンカフェ」は、そんなWatsonのリアルな活用法を共有し合い、現状の課題や今後の可能性について議論し合うサロンイベント。元々はエンジニアの方を対象に開催されてきましたが、co-ba shibuyaとコラボレーションし、技術者のみならずスタートアップのリーダーも対象とするイベントにリニューアル。記念すべき第一回目が、7月26日にco-ba shibuyaで開催されました。

第一回の登壇者は、Watsonの企業導入支援を行っているITエンジニア兼ITコンサルタントの井上研一さんと、スタートアップ企業の開発支援を担う株式会社v-forceの阿良田 燎さんです。

井上さんは実際にビジネスの現場にWatsonを導入し、業務改善を行ってきており、阿良田さんはスタートアップにおけるWatsonの活用法を試行錯誤してきました。

異なる2つの視点から、Watsonの姿を見つめました。

Watsonでコールセンターの検索機能をアップデートする

まずは井上さんが「Watsonのコールセンター導入に関する実践と現実」と題し、コールセンターのシステムにWatsonを組み込んだ際の体験を共有。

井上さんが依頼を受けたメーカーの希望は、コールセンターのオペレーターが利用する検索システムを、より便利に改良すること。井上さんはWatsonの開発者向けライブラリから2種類のAPIを使い、検索結果の精度を高めるシステムの構築を進めました。

井上さん「システムでは、文章の意図を読み取る『NLC(Natural Language Classifier)』と、全文検索と順位付けを行う『R&R(Retrieve and Rank)』を組み合わせています。オペレーターが入力した内容からおおまかな意図を読み取り、適した回答に紐付けるのがNLCで、NLCで回答に紐付けられなかった場合に入力内容で全文検索を行い、機械学習に基づく順位をつけるのがR&Rです。

開発を担当したコールセンターの場合、問い合わせの大半には決まった回答があり、パターンが限られていました。そのため質問数の多いものにはNLCの結果を表示させ、稀な質問にはR&Rで全文の一致した結果を返す、という使い分けを行なっています」

「Watson」は新入社員、段階を追って教育する重要性

システムの中身と同様に欠かせないのが、学習用のデータを溜める作業です。井上さんは「Watsonは新入社員と同じで、良質なインプットが成長のためには必要」だと語ります。

井上さん「Watsonは『雇用する』と捉えた方がいいですね。しかも、即戦力の中途ではなく、新入社員。なので、しっかりと座学とOJTを行って、やっと一人前になります。具体的に言えば、数万件あるFAQのデータをただ読ませても意味がない。NLCなら質問の意図と回答のセット、R&Rでは文章の関連付けなど、目的に適したデータを用意して学習させる必要があります」

適切なデータを用意するため、井上さんはWatsonで扱えるデータの質や量に合わせて、APIを一つずつ追加していきました。当初は全文検索の結果に対し、オペレーターに「どの回答が役立ったか」投票してもらい、順位の基準となるデータを蓄積。学習データが十分溜まってから順位づけの仕組みを入れ、文章の意図を読み取るNLCは最後に導入しています。

データを蓄積していく過程にもハードルがありました。段階的にデータを集めていく中で、学習用に集めたデータの質に関する課題に遭遇したそうです。

井上さん「本来、Watsonが賢くなるためには、文章形式の質問と回答を学習させるのが最適です。しかし、誰もがキーワード検索に慣れすぎているため、オペレーターの入力する質問文が短いか、あるいはキーワードだけというケースが多々ありました。より最適な学習データを収集するには、オペレーターが音声で検索できるような仕組みがあるといいと思います」

Watson導入に求められる役割の広さ

井上さんは、Watsonを用いたシステムの仕組みか ら、運用までに必要なプロセスや現場の課題を語ってくださいました。

質疑応答で参加者から挙がったのは、Watsonの導入にあたり「求められる役割の幅広さ」についての疑問。井上さんのように顧客のヒアリングからシステム設計、学習のモデリングまで一人で担当するのは可能なのか、というものでした。井上さんは次のように答えます。

井上さん「今回は、長い付き合いのある顧客で、現場の状況も十分に理解していたので可能でした。確かにゼロからの構築だと難しいかもしれません。プログラミングや画面をデザインする人員は必要ですが、今回の事例で私が書いたコードは決して多いわけではありません。

また、モデリングも言語系の専門的なツールを用いるのであれば別ですが、Watsonならデータサイエンティストがいなくても大丈夫だと思います。今回ご紹介した例でも、お客様と『こういう質問であればこう返すよね』といったコミュニケーションを重ねながら改善を進めていたので、問題ありませんでした。深い専門的知見がなくても、導入しやすい点はWatsonの大きな特徴かもしれません」

祭りの情報をより広く届ける「Miccossy」がWatsonに寄せる期待

技術者側から、Watsonを導入する上でのリアルな体験をシェアしてくださった井上氏に続き、スタートアップを対象にシステム開発支援を行う株式会社v-forceの阿良田 燎さんが登壇。日本で開催されるお祭りの情報を提供するサービス「Miccossy」の支援における、Watsonの活用について話してくださいました。

「Miccossy」が目指すのは、地域のお祭りに関する課題解決。人不足や高齢化、資金不足に悩む祭りの情報を広め、参加したことのない人に足を運ぶきっかけを与える仕組みを提供したいと、阿良田さんは語ります。

阿良田さんがサービスに実装しているWatsonのAPIは「Watson Language Translator」、難解な日本語が含まれる祭りの説明文を、外国人の利用者が理解しやすい英文に直すシステムです。

阿良田さん「例えば『氏子』は地域の神社に属している人たちを指すのですが、何も学習をさせていない翻訳サービスだと固有名詞『Shinko』として認識されてしまう。Watsonだと特定の分野に特化して学習させられるため、『shrine parishioner』と文脈に沿った翻訳結果を返してくれます」

ユーザーに情報を提供するためのデータをどう集めるか

阿良田さんがMiccossyにおける課題として捉えているのは、ユーザーにどういった形で情報を提供するかという点です。現状では、ウェブ上に散在している祭り情報をどう整理し、いかにユーザーが行動を促されるような形で提供できるのかが課題だと語ります。阿良田さんは、こうした課題を解決すべく、Watsonを用いたソリューションを試してきました。

阿良田さん「ウェブ上にある祭りの情報は一箇所にまとまっておらず、専門的でわかりづらい場合が多々あります。どんな祭りかをより理解しやすい形でユーザーに伝えるために、NLU(Natural Language Understanding)という感情分析のAPIを使ってみました。

NLUは複数の文章データから共通する特徴や、文章に込められた感情を読み取って分析してくれます。Miccossy上で祭りを検索したときに『この祭りは◯◯な祭りです』とシンプルで概念的な説明文が表示されたら、ユーザーが祭りに興味を持つ可能性が高くなるはずだと考えたんです。

ただし現段階ではNLUが日本語化されていないため、英語に翻訳した文章データを分析し、日本語に戻す必要があります。そうするとさすがに『東京都』など一般的なキーワードしか拾ってこれず、本格的な実装は時期尚早だと判断しました。NLUが日本語に対応したら、ぜひ再度トライしたいですね」

阿良田さんは、井上さんも言及していたNLCを用いた祭情報のチャットBOTや、画像解析でお祭りのポスターから情報を取得する仕組みなど、WatsonのAPIを活用したアイディアをいくつもシェアしてくれました。

阿良田さん「Watsonをサービスにどう組み込めるか、改めて考えると掛け合わせのアイディアはいくつも出てきました。

Watsonは利用したい領域に合わせて学習データをカスタマイズできます。スタートアップの方は『Watsonを使うとしたら…』と仮定してアイディアを膨らませていけば、きっとこれまでにないユーザー体験を実現できると思います。

例えば、SNSの分析から性格の特性を解析するPersonal InsightというAPIがあります。これを使って祭りに参加した人のツイート内容を分析すれば、性格に合う祭りをユーザーに提案するレコメンド機能も作れるかもしれません」

Watsonを起点にして生まれるサービスのアイディア

「何か他にもよい組み合わせがあればぜひ教えてください」、そう阿良田さんが参加者に投げかけると、会場からはWatsonの活用に不可欠な”データ”を集める方法について複数のアイディアが飛び交いました。

「食べログのようにユーザーの人にアップしてもらう形式にすればいいのでは」

「インスタグラムなどで特定の場所・時間に絞って収集すれば、祭りに関するデータを得られるのでは」

など、すぐに実践的な案が挙がります。

阿良田さん「祭りに関する感想がSNSなどでアップされるのですが、祭りの名前が正式名称で書かれていなかったり、場所が判別できない場合が多かった。特定の場所と時間に絞るという良いアイデアだと思います。さっそく試してみたいですね」

その後も、データを集めるための方法について、アイディアソンさながらのディスカッションが展開。足袋で位置情報を把握して、神輿の現在地を追うサービスなど、祭りを軸に新たなサービスを生む議論も盛り上がりをみせていました。

現場におけるWatsonの活用法や課題から、Watsonを軸にした新たなサービスの創造まで。日常的にWatsonに触れ、現状とそのポテンシャルを実感されているお二人からは、人間のアイディアを元にWatsonが活躍できる場を設計する大切さが伺えました。

Watsonの可能性に期待を寄せるだけでなく、ポテンシャルを最大限に発揮させられる仕組みを思考する。これから「水曜ワトソンカフェ」で生まれる議論は、きっとビジネスにおいてWatsonと上手く付き合うためのヒントを与えてくれるはずです。

Text:Haruka Mukai

 

<登壇者>

■井上 研一 氏
aka inoccu / 東京都中野区に住むITCA認定ITコーディネータ、ITエンジニア。現在も開発の現場に立ち続けるほか、執筆・セミナー・研修など行っています。2016年10月に書籍「初めてのWatson APIの用例と実践プログラミング」、2017年7月に「ワトソンで体感する人工知能」を刊行。中野を中心としてIoT+AIもくもく会も主催。

■阿良田 燎 氏
株式会社v-force 
スタートアップ企業向けに成功報酬型でシステム開発を行う、株式会社v-forceにて開発・マネジメントを担当。専門はwebアプリケーション開発。2017年5月にIBM BlueHub主催の「Open Innovation Initiative for Inbound Travel」に参加し、株式会社Andecoの祭情報提供アプリ「Miccossy」のビジネスモデル構築からプロトタイプ開発まで携わり、Mistletoe賞を受賞。様々なwebアプリケーションにどのようにWatsonを活用できるかを日々模索中。

 

次回「水曜ワトソンカフェ」は、2017年8/30(水)19:30より開催。

イベントページ▶︎https://www.facebook.com/events/106699466696540/

水曜ワトソンカフェとは

「IBM BlueHub」×「co-ba」で共催するサロンイベントです。

毎回、第一線で活躍する2名の登壇者をお呼びし、Watsonの活用方法や事例についてのプレゼンを行います。その後、参加者も加わったディスカッションの時間も設け、Watsonへの理解と多様な活用方法を共有していきます。Watsonについてまだ深く知らない人、すでに使っているユーザー、これから事業に活用していきたいCEO、CTOなどのスタートアップを率いるリーダーにとっても、Watsonの使い方や活用事例、新しいアイデアのためのヒントを得るができるイベントになっています。