co-ba HIROSHIMAとは
「co-ba HIROSHIMA」は、全国各地に広がるシェアードワークプレイスのコミュニティ、co-ba NETWORKのひとつ。あなぶきグループと協働しあなぶきグループが所有するビルを有効活用して、2018年7月に誕生した。
穴吹興産株式会社の本社がある香川県高松市にも、同時期に『co-ba TAKAMATSU』を開設。瀬戸内エリアにおける、起業家やスタートアップ企業の創業支援とコミュニティ形成を目的としている。
『co-ba HIROSHIMA』は、tsukurubaで設計を行った。今回の設計で軸として考えことは、大きく以下3つである。 - 3つの空間(フリー席、固定席、個室)の配置構成とそれらを繋ぐ主通路 - コミュニケーションを誘発するシェアードワークスペース - 拠点と運営者のアイデンティティ
3つの空間の配置構成について
「co-ba HIROSHIMA」の区画がコの字型で南北に長いことを考慮し、大きく3つ、フリー席、固定席、個室と3種のワークスペースに分けた。
イベントスペースの機能を併せ持っているフリー席の区画は、眺望が開けた北側に配置。開放的で明るい空間になり、「話す」行為を促しやすい場を目指した。
個室区画は、機能上囲まれた空間となる為、光を多く取り込める南側へ配置し、圧迫感を軽減させた。多様な人数構成に対応できるように、可動間仕切を使い、広さを変えられる仕掛けを作った。
中央に配置した固定席区画は、他の2区画の特徴とは大きく異なる構成としている。建物の構造上光が届きにくい中央に位置する為、「閉鎖的な空間」としての特徴を強めた。
視界の抜ける格子戸を用い、囲われた空間ながらも圧迫感を感じさせない空間とした。また、作業に集中しやすい環境にするため、天井高さを敢えて低くすることで “籠る作業場” をイメージした。
イベント時には固定席会員が作業に集中できるよう、会議室をフリー席との間に配すことで、一定の距離を保てるようにしている。
コミュニケーションを誘発する空間とは
次に、コミュニケーションを誘発する空間の在り方を考えた。co-baの特徴のひとつとして挙げられるのが、コミュニティマネージャー(以下CM)の存在である。co-baの各拠点には必ずCMが存在している。
CMと来訪者の関わり方を、空間構成の観点から模索できないか検討を進めた。来訪者を空間と眺望が開けたフリースペースへ自然とアクセスさせるような動線にし、そこにCMの定位置となる受付を配置。初めて来訪する利用者の警戒心を和らげる、アプローチとした。
メインエントランスとなるフリースペースには、待合スペースを兼ねたリラクゼーションスペース機能をCMの近くに設け、CMとコミュニケーションを取りやすい空間を目指した。
また、フリースペースに配置する家具は大テーブルやベンチなど、「共有する家具」で構成。共有することで互いの距離感を縮め、コミュニケーションを取りやすい環境となることを意図した。
先に述べた3つの空間を繋ぐ「場」となるのが、主動線となる廊下に設置した10m以上に及ぶ本棚「co-ba ライブラリー」である。
このライブラリーには、co-ba会員の自社事業の紹介や各会員が薦める本等を置くことができる。廊下を単なる動線とするのではなく、人となりや専門分野等が垣間見え、会員同士をつなぐ接点として機能させることを意図した。
この「co-ba ライブラリー」が、コミュニケーションのきっかけとなることを狙っている。
広島と穴吹グループのアイデンティティについて
最後に東京を拠点とするtsukurubaが、いかにして地域特性を持つco-baを広島らしいデザインに落とし込んだかを話したい。
tsukurubaが運営しているco-baは全国で展開をしているものの、空間デザインをtsukurubaが請け負うことは、そう多くはない。拠点オーナーが地元デザイナーに依頼して空間を作り上げていくことが大半である。
広島のアイデンティティをいかにしてデザインに落とし込むかを考えた結果、広島で足場板の普及活動をしている「WOODPRO」にご協力頂き、足場板を要所に活用することにした。
均質な空間になり過ぎず、荒々しい足場板の存在感が浮かない質感を模索。そこで、空間全体を木毛セメント板とラワン合板で製作した家具や建具で構成することで、プレーンになり過ぎず、かつ、落ち着いた暖かみのある空間となるように調和を図った。
また、クライアントの意向によりあなぶきグループが運営することを前面に押し出さない方針があった。そのため、あなぶきグループが運営するco-baであることを何かしらの形で表現出来ないかを考え、あなぶきグループの企業カラーであるブルーのラインを全体に配することにした。
工事現場で使われるブルーのマスキングテープを意匠として空間全体に取り込むことで、あなぶきグループのアイデンティティを可視化させることができた。このラインを日々のコミュニケーションの中心となるリラクゼーションスペースの固定家具に到達させることで、無意識に集まりやすい「場」となることを狙った。
大手企業が運営するシェアードワークプレイスの可能性
co-baは全国展開して今では20以上(2019年3月現在)の拠点が既に存在するが、オフィスの一部をco-baとして利用する事例は今回が初めてである。あなぶきグループでは、「あなぶきスタートアップ支援ファンド」を既に設立しており、co-ba HIROSHIMAの会員との接点も重要となることは、計画初期から明白であった。
大手企業に対して少し堅いイメージを持たれる方は多いとは思うが、筆者もそのうちのひとりである。そのため、あなぶきグループが今まであまり接点を持っていなかった属性の企業やスタートアップとつながるためには、空間の在り方が重要と考えた。
co-ba HIROSHIMAが大手企業の堅いイメージを感じさせるシェアードワークプレイスとならないようにすることや、空間の観点からコミュニケーションを誘発する仕掛けが重要と考えデザインした。
シェアードワークプレイスに求められるものは、日々変わってきているように感じる。都内においてはシェアードワークプレイスは飽和状態にあり、利用者が働く場所を選べる状況になりつつある。
運営側の目的と場所の特性を捉えたワークスペースの在り方を、より具体的に考えていく必要が増していくのではないだろうか。