メルカリが今もオフィスを構える六本木ヒルズに入居したのが、約4年前。当時のオフィスの設計をtsukuruba studiosの田村が担当していたため、今回のアップデートも手掛けることになった。
今回のアップデートで大切にしたことやその背景を、メルカリの担当者である須山様・中戸川様(以下敬称略)、田村に伺った。
今回のアップデートで大切にした観点
須山:元々のオフィスの造りがシンプルだったので、お客さまの対応スペース、コミュニケーションスペース、クリエイティブスペースを設けることで、オフィスでメルカリの文化をより表出させたいと思っていました。
その中でも特徴的なのは、コミュニケーションをとることを目的としたアイディエーションスペースです。
ワゴンやスツール、持ち運べるホワイトボードなど可動式の家具があり、セッティング次第で様々な使い方ができる
田村:日常的な社員同士のコミュニケーションを社外の人にも晒すことで、仲間を増やすことにもつながると思い、社外のお客さまから見えやすい位置に、そしてガラス貼りにしました。
tsukuruba studiosの田村
ディスプレイは他のスペースにも備わっているので不要かと思ったんですが、ディスプレイを見ながらアイデアブレストをしているのを見て、こういう使い方もあるのかと気付かされましたね。自分が想像していなかった使われ方をしているので、様子を見ているだけでも楽しいんですよ(笑)
須山: アイディエーションスペースは、意図していなかった色々な使い方が自然と生まれているのがいいなと思っています。想定していないものが置かれていることもあって。筋トレマシーン、3Dプリンター、セグウェイとか(笑)
今後もこういう “治外法権” の場所は必要だなと思っています。それをこちらがマネジメントできていれば、自発的な行動が生まれているという組織にとってポジティブなことなので。
左・中戸川、右・須山
田村: 今までのオフィスは、サービス、コーポレイト、世界観を表現していくものだったんですが、今回は体験動線やVOC(Voice of Customer)が追加されました。なので、提案するものの内容をがらっと変えましたね。
須山: 今までは比較的エンジニアセントリックな文化が強かったのですが、カスタマーセントリックも大切にしていこうとなったタイミングだったんです。
カスタマーサポート以外のメンバーにも顧客からの声を知ってもらいたいと、色々な人が集まるカフェスペースの壁に書くことにしました。
VOCは生の人の声なので、手書きにすることで温かみを持たせ、フォントも色も変えたんですよね。
壁一面にお客さまからの声が貼られている、カフェスペース。
お客さまの声を聞くための場としてつくられた「Experience Lab」
PCメンテナンスや備品の貸し出し、セッティングを行う受付カウンターである「IT」
郵便物などの発送・受け取りがすべて集約されている「Delivery Pit」
オフィスから感じてもらいたい “メルカリらしさ”
須山:オフィスのどこでメンバーが “メルカリらしさ” を感じているのかというと、コーポレートやサービスカラーなんですよ。
もちろん色にこだわらなくてもいいですが、オフィスでメルカリらしさを感じるというのはこれからも大切にしていきたいなと思っています。特に、コミュニケーションにフォーカスした設計という特徴は、他のフロアでも感じて欲しいなと。
組織が社員を信頼していること、情報を社内でオープンにしていること、そして積極的に情報を自ら取りに行くという文化をオフィスで実現し、社会にも発信していきたいので、オフィス設計においてコミュニケーションに重きを置いています。
田村: メルカリさんの設計で初期の頃から大切にしていたのは、単にかっこいいオフィスを造ればいいのではなく、メッセージを届けるためのオフィスであること。
実は、メルカリさんのオフィスに関わり始めてから、設計の仕方が変わったんです。デザインだけではなく、アイデンティティであるコミュニケーションの媒体であるというフィルターを通すので。オフィスの担当者が変わっても、絶対にその話が出てくるのはおもしろいなと思います。提案をするのは大変ですが、その分楽しいですし、やりがいがあります。
『使い方を規定しない』設計の意図
田村:一般的にコーポレートの考え方とミッション・ビジョン・バリューの浸透度は、社員数が増えると希薄になってしまいます。ですが、メルカリさんは浸透させる施策をオフィスで循環させて、実際に機能しているなと感じます。
須山: そうですね、制度やオフィスをつくるときにはかなり意識しています。例えば、シックリーブというルールでは、有給を使わずに診断書も不要で病気のときの休暇をとれるようになっています。
社員はそのルールを自分と会社のために使うと組織が信じてくれているんだなと感じますよね。なるべくルールを設けないということは、社員を信じるしかないということ。そして、個人の考えが重要視されている。それを組織が自らつくっているのが、メルカリのカルチャーの中で大きいですね。
田村: 主体的に動くことが組織風土になっているメルカリだからこそ必要とされているアイディエーションスペースはどうあるべきか、今回は3つのサイズのツールをレゴのように組み立てたてられるようにしたり、アイデアブレストをする際の使用パターンを提案させていただきました。
使い方のパターンは提示しつつも、運用方法はチームや個人に任せカスタムしてもらう 設計者として使い方を定義し、提案をするのが筋だとは思いますが、個人の考えが重要視されているメルカリさんだからこそあえて緩い使用ルールを設定するだけに留め、場所の最適解を自分たちで作る形式にしています。
提供されているサービスにおいても、常に変化と成長を続けている。このアイディエーションスペースにおいても完成した段階が完了ではなく、プロジェクトや個人の利用の仕方に合わせてカスタムして最適化していける場所として愛着を持っていただけることを願ってます。
メルカリは変化しているんだけど、提供しているサービスがどういう社会を実現しているかは変わっていないし、これからも変わらないでほしいですね。